Nikon F Photomic FTN

Nikon F Photomic FTN + Nikkor-S Auto 35mm f2.8 

特徴

 このカメラの特徴はあえて語るまでもない、ニコンが1959年に販売開始した、同社初の一眼レフカメラである。。

 ベースとなったのは、当時の同社のレンジファインダーカメラの最高峰、ニコンSPである。SPはライカM3と並ぶレンジファインダーの高級機で、35〜135mmレンズに対応する凝ったファインダー、堅牢な造り、そしてプロ用途に耐えうる耐久性を備えている。ニコンFは、そのSPをベースにした一眼レフカメラだ。

 Fの特徴は、その後のF一桁シリーズにも引き継がれている。つまり、最初から目指したものが高かった。
 例えば、ファインダー。視野率100%を誇る。今でこそ、キヤノンEOS-1シリーズ、ミノルタα-9といった他社の高級機も100%であるが、Fは40年以上の発売時、既に100%に達していたのである。最初からプロしようとして生まれた本機の必要条件だ。
 次にシャッター。チタン膜を使ったシャッターは、耐久性に優れ、公称10万回ものシャッターを切ることができる。これはあくまで「公称」であって、実際はその数倍の耐久性を持つとされている。F3では、図書館で複写用途に使用されていたもので100万回シャッターを切っても壊れなかったという話(アサヒカメラより抜粋)である。
 その他、プロ機の証として、モータードライブが装着可能なことや、250枚撮り長尺フィルムがオプションで搭載可能な事や、ミラーアップ、ベローズや特殊撮影用アクセサリが豊富に取り揃えられた。

 このカメラは例によって色々伝説が語り継がれている。それがウソか本当かはどうでもいい事だが、伝説になるくらいだから、それぐらいの耐久性をもっていると考えてもいいだろう。

 筆者が所有する(と言うよりオヤジのをかっぱらった)F Photomic FTNは、ベースのFのファインダに露出計をつけたフォトミックシリーズの最終型で、1968年発売。
 フォトミックシリーズは、初期の外光式のCdS露出計を備えた「Photomic」、露出計をTTL化した「Photomic T」、TTL測光を中央部重点にした「Photomic FT」、そして、最終型「Photomic FTN」となる。この最終型は、初期のフォトミックの欠点であった、大きいペンタプリズムをコンパクト化し(それでもかなり大きいが)、開放f値の半自動設定が可能になったのが特徴だ。
 元々、露出計を持たないFは、プロはともかく、ハイアマチュアには不便を強いる事もあったようだ。後付けファインダで対応するというのが、いかにもニコンらしい。

 Fは、使い勝手の面であまりいいカメラとはいえない。フィルムを装填する際は、裏蓋ごと外さなければならないし、シャッターボタンの位置も指をつりそうなところにある。巻き上げのフィーリングも決してスムーズではない。もちろんそれらは後継機で解消されているが、F一桁シリーズは、全てどこかに特徴があり、欠点も備わっている。そういった、どこか人間らしい(?)ところが、ニコンのカメラ全般に言えるのではないだろうか。



インプレッション

 
オヤジがFからF4に乗り換え、Fはほとんど使われなくなってしまった。そして数年がたち、自分もカメラの興味を持つようになって、初めてFというカメラがのん何すごい物かと解ったのだ。子供の頃に触ったFは、ごつくて重くて、いかにも機械の塊という印象だった。それは大人になった今も変わらない。ごつくて重いニコンF、いまだ健在だ。

 前述の通り、このカメラは結構不便である。裏蓋もそうだし、シャッターボタンも押しにくい場所にある。シャッターのフィーリングはすばらしい。シャッター音は横幕シャッターの特徴というか、まろやかだが、少し金属のにごった感じの音も聴こえる。フィルムを装填し、実際の撮影現場では、F90Xのような電子シャッター+モータードライブのカメラより、はるかに小さい、スナップ向きの音である。とはいえ、ライカM6などに比べたら少し大きめの音だ。

 フォトミックFTNは、ニッコールレンズのカニ爪と連動し、それまで必要だったレンズの開放f値の設定は、レンズ装着時に絞りリングをf5.6にして装着、さらに絞りリングを絞込みから開放まで往復させる事でセットされる。ニコンの古いカメラの儀式とも言える。

 フィルムを装填し巻き上げると、巻き上げレバーの感触は少しざらついた感じだ。この辺はF3などはボールベアリングによって、滑らかになっている。フォトミックファインダーのASA感度設定ダイヤル(シャッター速度ダイヤルと同軸上にある)は、固くて動きが渋い。このダイヤルで露出補正をしようとは考えない方がいい。そもそも、この手のマニュアル機は露出補正は経験とカンが頼りだ。また、シャッター速度ダイヤルも、フォトミックファインダと組み合わせる事で、かなり動きが渋くなる。全ての動作は渋くて、スムーズには行かないかもしれない。逆に誤動作を防ぐプロ仕様とも言える。

 ファインダーを覗くと、やや暗いがピントのつかみやすいスクリーンである。フォトミックの場合、ファインダーの上に露出計の針が揺れる。その横にシャッター速度が表示される。絞り値は表示できない。露出計は針が+−に触れるだけの簡単な物だ。中央部重点測光で、露出補正はこの針の振れを考慮すればよい。
シャッターボタンのタッチは確かで、そしてここだけは重くない。これが重かったら撮影にならないが。

 フィルムの巻き取りレバーもしっかりとした物。最近の華奢な工業物全般に、少しは見習って欲しい堅牢さだ。


 このカメラは、主にスナップ、それもモノクロフィルムといった具合だ。古いカメラのイメージに合った撮影をしている。さすがにこのカメラで航空ショーやモータースポーツなどの動き物を撮る気になれないし、撮ったとしても筆者の技量ではうまく行かないだろう。
 昔のプロはこれで動き物をバリバリ撮影していたのだからすごい。シャッター速度もも絞りも、フォーカスも自分で合わせ、なおかつファインダー越しに被写体を追わなければならない。とてもじゃないが、筆者には出来そうもない、せいぜい露出固定で被写体を追うのが関の山だろう。
 だから、このカメラを筆者はゆったりとした撮影テンポで、しっかりとファインダーでアングルを決め、カンで露出を合わせ、息を止めてシャッターを押す。Fは丁寧に撮影する事を教えてくれる。


Fのレンズ

 Fのレンズといっても、不変のFマウントレンズはほとんどすべて装着可能。さすがに最近の絞りリングを省略したGレンズは実用ではないが、AFニッコールも絞り込み測光で露出計が作動する。もちろん、あえてAFレンズを使うことはない。

 さて、所有するマニュアルレンズは、Nikkor-S Auto 35mm f2.8、Nikkor-H Auto 85mm f1.8、コムラー90-250mm f4.5だ。さすがにズームのコムラーは出番は少ない。マニュアル機にはやはり単焦点レンズだ。
 Nikkor-S Auto 35mm f2.8 コダックT-MAX CN  1/60  f8

 作例はAuto35mmで撮影した物。函館の金森倉庫群で、クリスマス時期の撮影だ。この35mmは、Fと共に1959年に発売された、もっとも初期のFマウントレンズの1つだ。カラーではあっさりした発色で、モノクロの方が良く似合う。f2.8と明るさは欲張っていないため、解像感は比較的良好。ただし、筆者の所有するAiAF Nikkor35mm f2Dよりはやや甘い印象だ。ボケは2線ボケの兆候がみられる。オールドレンズらしい、優しい感じのするレンズだ。
 Auto85mmは、f1.8の大口径で、明らかにファインダーに写る像が新鮮に感じる。オールドニッコールらしく、ややボケは硬めで(絞り羽が6枚なのも影響しているか)、ポートレートにはあまりむかないかもしれない。しかしながら解像感は抜群で、シャープなニッコールというイメージどおりだ。
 最近手に入れたのがAuto135mm f3.5。目立つ傷もなくかなりの美品を、何と3千円で購入。もちろんわけありで、光にかざして見ると、レンズの周辺に曇りがある。買った店のおじさん曰く「絞って使ってね」とのこと。実際撮影した限り、絞り開放でも画質に問題ない。きっとほとんど使わずにしまいこんであったレンズだと思う。手持ちのマニュアルレンズで一番きれいだったりする(笑)。もう1段明るいレンズが欲しいなぁ。
 最後にコムラーだが、こちらは消えてしまったレンズメーカーの高倍率(当時は)ズーム(90-250mm f4.5)。最近の望遠ズームは、大口径タイプを除いてf値がズームによって変動するが、このレンズは固定なのが嬉しい。絞りリングはニッコールより安っぽいクリックだ。マウント付近の作りも、ニッコールに劣る。カニ爪は、ニッコールのように丸っぽくなく、三角だ。肝心の描写はたいした物ではないが、最近の安価なAFズームに負けないと思う。昔のズームゆえ、図体が大きいのが難点。レンズキャップがかぶせ式で外れやすいのもよくない。

マニュアルレンズ群。これから微妙に増えていく…かも? 



 所有のFは、そろそろオーバーホールが必要だ。というのも低速シャッターが時々調子が悪い。調整が必要と思われる。またAuto35mmは、フォーカスリングがグリス切れっぽい。オールドニコンを所有するには、頑丈とはいえ、メンテナンスも忘れてはならない。



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